略歴にも書きましたが、若い頃、神戸大学文学部で西洋史学を専攻しました。そして、同文学部で研究助手を務めていた3年半、アメリカ史研究に従事していました。その後、文化服装学院の通信教育で洋裁を学び、2年間の課程を修了後、洋装店でオーダーメイドの服作りや高級婦人既製服(プレタポルテ)のパターンメーキングや裁断・縫製の仕事についていました。
今日では衣服生産も中国や韓国、インド、ベトナム、カンボジアなどアジアや東南アジア方面で行われていますが、私がアパレル業界で仕事をしていた頃は、日本のすばらしい伝統的な技術が世界の脚光をあびており、この業界が活気付いていました。
我が国のアパレル業界がアクティブな時代に、伝統的な技術を身につけることができたのは、貴重な経験であったと確信しています。自分や家族の服が作れるようになりたかったということは勿論ですが、なぜか将来は西洋服飾史を学ぼうという夢を抱いていた私にとりましては、ありし日のパリの縫い子さんの仕事ぶりがわからなければ、西洋服飾史の本質は分らないであろう、という考えが、洋裁を始めたきっかけでもありました。
そういうわけで、理論と実践は車の両輪であり、大学においてもこのような考えに立った教育が行われるべきだというのが、私の持論です。
【アメリカ史研究からアメリカ服飾史研究へ】
アパレル業界で働くかたわら、西洋服飾史の勉強をはじめました。我が国の西洋服飾史の草分けでいらっしゃる丹野郁先生に、和田典子先生からご紹介いただき、丹野研究所(東京都豊島区東池袋1-20-2 池袋ホワイトハウスビル720号)に通うことになります。
丹野先生は、私が先生の研究所に通い始めて間もなく、「濱田さんはアメリカ史のバックグラウンドがおありなので、アメリカの服飾史を研究して、論文発表をされると良いですよ」という貴重なアドヴァイスを下さいました。
濱田は、その10年余り前に、神戸大学文学部に助手として在職中に、アメリカ史の専門家の本田創造先生(元・桜美林大学副学長)のご指導の下にアメリカ史を学んでいます。「アメリカ史の研究者にとって、アメリカ服装史という文化史の分野は今後、開拓していかなければならない大切な研究分野ですよ。服飾史のご専門の先生のご指導のもとで、しっかり研鑽を積んで下さい」という本田先生のお言葉も丹野先生のお言葉と同様に、脳裏に焼きついています。
このような経緯で、アメリカ服飾史研究に着手したのは、今から37年前のことです。
最初に国際服飾学会(会長 丹野 郁)で発表したのが、論文「17世紀ニューイングランドのピューリタン衣裳の史的考察」国際服飾学会誌 、1985 第2号、36-55です。他の業績は上記のresearchmapを参照していただければ幸いに存じます。
近年は「19世紀アメリカの女性のドレスリフォームについて」と題して、「近代アメリカの服装改革運動」から説き起こし、「アメリカ服飾社会史の近現代・未来篇」というダイナミックなテーマでの執筆活動に取り組んでいます。
【英語文献の翻訳とフィールドワーク】
この37年間、アメリカ服飾史研究の方法として、英語文献や英文史料の講読とフィールドワークという二本の柱を常に念頭において歩んで参りました。
博士の学位の取得のために、1999年7月~9月の約3ヶ月間、米国ヴァージニア州 コロニアル・ウィリアムズバーグのJohn D. Lockefeller Jr. Libraryに在外研修員として招聘され、ヴァージニアの奴隷の被服の研究に従事していました。
【服飾史の研究方法】
濱田は「服飾史を単なる服飾の変遷の羅列史としてではなく、衣服を取り巻く環境、すなわち、気候・風土、政治、経済、文化(芸術、文学他)宗教など他の社会科学分野の諸要素との関わりを常に意識して、総合的に進められければならない」という筆者が師事させていただいてきた、丹野郁博士のお教えを守るべく心がげてきました。今後の著作においても、師の説かれる服飾史の研究方法に忠実に沿った著作になるべく努める所存です。地球環境が大きく変化している今日、服飾研究者が果たす役割も問い直されているのではないでしょうか。例えば、環境にやさしい衣服産業のビジネス・モデルの提案など、大きな課題に直面しているのではないでしょうか(2019年6月4日記)。
【濱田雅子の服飾講座】
★濱田雅子の服飾講座「服飾からみた生活文化」シリーズは、Office Com Juntoという児嶋きよみさんの主宰するNPOのプログラムのひとつであるGlobal Sessionの中で2013年10月から開催されてきた。このGlobal Session(GS)は、当時の運営母体であった(財)亀岡市交流活動センター(亀岡市外郭団体)の市民向けの英会話講座のひとつとして1999年に開始され、児嶋きよみさんのの退職後はこのGSの運営を委託され、今日に至っている。2020年11月のGSで、335回目を数えている(概ね月に1回開催)。この間、ほとんどの会でお知らせと同時にレポートを作成し、参加者の思いが伝えられている。
★本講座は濱田の研究内容を参加者の皆さんに、パワーポイント(写真資料や解説)や配布資料を用いて、ヴィジュアルにわかりやすく語らせていただき、ディスカッションをするという形式で行ってきた。時折、濱田が研究に用いた英語の資料を参加者の皆さんと講読する機会を設けさせていただいた。ポルトガルの民族衣裳に始まり、アメリカの服飾史を中心に、かなり専門的なテーマを扱っている。濱田のアメリカ服飾史研究の特色は、上流階級から下層階級にわたる服飾社会史研究を成していることにある。このような立場で、先住アメリカ人やアフリカン・アメリカンや中産・下層階級の衣服研究に 1981 年以来携わってきたのだが、本講座でも参加者の皆さんから、このような方法論に注目していただいてきた。参加者数は数名から 20 名の範囲に及び、服飾研究者に限らず、多方面にわたっている。2020年8月22日の講座で18回目を数えた。
(2020年12月1日追記)
本講座の報告書(シリーズ1~10)は下のPDFファイルをダウンロードのうえ、ご一読下さい。
アメリカの服飾に限らず、多民族の服飾文化(ヨーロッパ諸国、アジア諸国の服飾文化)に関する研究発表や講演、書評会、西洋服飾史・民族衣装セミナー、ワークショップ(デザイン画、手芸、コスチューム・ジュエリー制作など)を行って参りましたが、2020年より、新型コロナウィルス感染症の蔓延により、上記の様な集いが持てなくなっています。そのため、会報発行、および、オンライン講座による持続可能な活動を行っています。下記より、お気軽にお問合せ下さい。ただし、研究会の趣旨に沿わないお問合せには、対応できかねます。