期日:2020年8月22日(土) 10:30~12:30
場所:ガレリア3階 会議室
ゲスト:濱田雅子さん (神戸からオンラインで参加)
コーディネーター:児嶋きよみ
参加者:どなたでも (前日までにコロナ禍もあり、申し込みを) 10名までの予定
参加費:600円
タイトル:濱田雅子さん 服飾から見た生活文化シリーズ18回目 『ザ・トゥルーコスト~ファストファッション 真の代償』 の鑑賞とセッション
① 濱田さんのビデオでの説明
② 映画の鑑賞 『ザ・トゥルーコスト~ファストファッション 真の代償』
(監督:アンドリュー・モーガン・ 日本語字幕付き) 一部を鑑賞
③ 神戸の濱田雅子さんと、亀岡の参加者とのオンラインでのセッション
映画 『ザ・トゥルーコスト~ファストファッション 真の代償』 について
「この映画はファストファッションをテーマにしたドキュメンタリーである。この映画の制作動機は、2013年4月24日にバングラデシュの首都ダッカで8階建てのビルが崩落事故を起こし、1100人以上の犠牲者を出したという記事がニューヨーク・タイムズ紙に翌日掲載されたのを見たことによるという。服をつくる工場では、毎日大量の化学薬品が使われ、私用した汚染水は農業用水としても使われ、海に流れている。このようなファッション業界はどう変わっていくのだろうか。」
ゲストの濱田雅子さんは、いろいろな国で売買されている単価も安く、質も悪くないいいことづくめのファストファッションに地球汚染の疑いがあることを知り、考えを深めて行かれました。
今回のセッションでは、ゲストは、神戸からオンラインで参加されますが、亀岡では、みんなでいろいろがやがや話合いをしていきましょう。
日本でも技能実習生のみなさんの労働の現状を知ろうという動きが出てきていますが、その第1歩になるかもしれません。是非、ご参加ください。これは完全に日本語セッションです。外国語の母語の方も、どうぞ、日本語で。
申し込み:児嶋へ e-mail:kiyomi-kojima@gaia.eonet.ne.jp
(ホームページ) https://office-comjunto.com
1.映画「ザ・トゥル-コスト」の概要(濱田雅子記)
筆者は、拙著『パリ・モードからアメリカン・ルックへ―アメリカ服飾社会史 近現代篇―』(インプレスR&D, 2019)の第二部第4章において、「映画『ザ・トゥル-・コスト―ファストファッション 真の代償―』(監督 アンドリュ-・モ-ガン)は非常に衝撃的である。あるいは本書の本題とははずれるかもしれないが、今後のアメリカ服飾史研究の課題の参考になればという思いから、この映画の概要を以下に、紹介する。」と述べて、筆者がまとめた以下の文章を紹介した(1)。
日本のファッション産業は、2016年で約9兆2000億円。一番、ピ-クだった1992年より4~5兆円も規模が小さくなっている。その理由は「安い、早い、大量、トレンド」を特徴とした、いわゆるファスト・ファッションが急激に増えたからである。ファスト・ファッションの店舗数は、ここ10年で2倍になっていて、日本の45%の衣料品は安物衣料である。
表題の映画は、この服飾ビジネスの世界を牽引しているファスト・ファッションをテ-マにしたドキュメンタリー-である。この映画は、最新の流行を取り入れて、大量生産された洋服が低価格で供給され、ほぼ使い捨て同然にまでなってしまったファスト・ファッションにメスを入れ、その生産者たちが置かれている現況や環境を追っている。主に欧米向けのほとんどの安価な衣服を作っているバングラディッシュや原料の綿花栽培地であるインドなどで取材した映像を元に、衣服の製造に携わる人たちの劣悪な労働環境、低賃金長時間労働、化学薬品の垂れ流しによる環境汚染や遺伝子組み換えコットン農家の悲惨な現状などを浮き彫りにしている。
さて、映画『THR TRUE COST』は、なぜ制作されたのだろうか?
アンドリュ-・モ-ガン監督がインタヴュー-で語ったところによると、「この映画製作の動機は、2013年4月24日、バングラデシュの首都、ダッカ郊外の8階建商業ビル『ラナ・プラザ』が崩落事故を起こし、1,100人以上の犠牲者を出したという記事が翌日のニューヨーク・タイムズの記事に掲載されたのを読んだからだ」という。
かつてのアパレル業界では、季節ごとにラインナップを揃えるメ-カ-がほとんどであった。だが、ファスト・ファッションではそうではない。1週間でショップのディスプレイがガラッと変わっていることも日常茶飯事である。そして、安すぎるぐらい安い。消費者にとっていいことずくめのように見えるファスト・ファッションは「世界の縫製工場」バングラディッシュなどの悲惨な製造工場によって支えられているのである。カンボジアのプノンペンの繊維工場においてもバングラディッシュ同様、労働者の賃上げを要求するデモが起こり、警察官による発砲・逮捕劇が起こっている。
バングラディッシュの首都ダッカに立ち並ぶ多くの縫製工場で働く労働者は、ほとんど貧しい女性たちである。労働時間は1日12時間以上、賃金はわずか3ドル。この映画に登場する20代の工員の女性、シ-マは、一児の母で、子どもを一人前にすることを夢見て、子どもを親戚に預けて、働いている。住まいはバラックのようなところであり、朝から晩まで工場で働いている。
服を作る工場では、毎日、大量の化学薬品が使われている。使用水の汚染水は農業用水としても使われる。この水を使った農地で獲れた農作物や、海で獲れた魚介類を食べた人たちの健康は損なわれ、癌患者が沢山出て、先天性の重度の麻痺や奇形なども後を絶たない。
インドのBt綿栽培農家では、大量の農薬が撒かれている。世界のコットン出荷量世界第2位のインドでは、そのほとんどはモンサント社が開発したGM(遺伝子組み換え)綿である。インドの種苗会社マヒコは1999年にモンサント社に買収され、細菌由来の殺虫性毒素が組み込まれた「Bt綿」は、綿花の天敵である蛾の幼虫が近寄らないように開発されたものだったが、その実、他の新たな害虫や立ち枯れ病が発生して、結果、大量の農薬を撒かなければならない。モンサント社が販売する除草剤「ラウンドアップ」を飲んで、畑で自殺する人が急増している。
映画では、アメリカ、テキサスのオ-ガニック・コットン農家の方がインタヴュー-に応じて、オ-ガニックの必要を訴えている。うず高く積まれている衣服のゴミの山の光景は、実に凄まじく、言葉で表現のしようがないほどである。製造から販売、消費から廃棄に至るファッション・アパレル業界が排出するCO2量は石油産業に次いで、第2位の規模だという。
このようなファッション業界はどう変わっていくべきなのだろうか。
2. 「ザ・トゥルー・コスト」の重要ポイント
① 服を作る工場では、毎日、大量の化学薬品が使われている。使用水の汚染水は農業用水としても使われる。この水を使った農地で獲れた農作物や、海で獲れた魚介類を食べた人たちの健康は損なわれ、癌患者が沢山出て、先天性の重度の麻痺や奇形なども後を絶たない。
② インドのBt綿栽培農家では、大量の農薬が撒かれている。世界のコットン出荷量世界第2位のインドでは、そのほとんどがモンサント社が開発したGM(遺伝子組み換え)綿である。インドの種苗会社マヒコは1999年にモンサント社に買収され、細菌由来の殺虫性毒素が組み込まれた「Bt綿」は、綿花の天敵である蛾の幼虫が近寄らないように開発されたものだったが、その実、他の新たな害虫や立ち枯れ病が発生して、結果、大量の農薬を撒かなければならない。
③ 製造から販売、消費から廃棄に至るファッション・アパレル業界が排出するCO2量は石油産業に次いで、第2位の規模だという。
筆者は、映画『ザ・トゥル-コスト―ファストファッション 真の代償―』を観て以来、この映画が突きつけているアパレル業界が直面している深刻な課題への解決策を模索してきた。そこで、出逢ったのが、ニコレイ・アンゲロフ博士(Dr. Nikolay Anguelov)の最近の作品、The Dirty Side of the Garment Industry, Fast Fashion and Its Negative Impact On Environment and Society, CRC Press, Taylor & Francis Group, Boca Raton, London, New York, 2016. である。2019年6月28、29日にG20大阪サミットが開催され、環境問題が論じられたが、誠に遺憾なことに、議論はプラスチックゴミの海洋汚染に集中し、衣服産業が生態系に及ぼしている影響については、全く取り上げられなかった。このような歴史的状況の元に、筆者はニコレイ・アンゲロフ博士の作品を丁寧に読み解き、我が国に紹介しようとの思いを新たにした次第である。
出典 : 濱田雅子著『アメリカ服飾社会史の未来像―衣服産業史の視点から―』(POD出版、2020.4)アマゾンで販売 Kindle版も出版(アマゾン)
今回は、濱田雅子さんのGlobal Sessionの中での「 服飾から見た生活文化シリーズ18回目 になります。今回のタイトルの 『ザ・トゥルーコスト~ファストファッション 真の代償』 は、オンラインでのゲストの参加の方法をとり、参加者は亀岡で、この映画の鑑賞とセッションをしました。セッションは、こちらのパソコン1台と神戸の濱田さんのパソコンを使い、プロジェクターを使用しながら、大きな画面で濱田さんとお話をしました。
その内容は、以下の通りです。
① 濱田さんのビデオでの説明
② 映画の鑑賞 『ザ・トゥルーコスト~ファストファッション 真の代償』
(監督:アンドリュー・モーガン・ 日本語字幕付き) 一部を鑑賞
③ 神戸の濱田雅子さんと、亀岡の参加者とのオンラインでのセッション
今回は、実際のセッションの時間は、映画をみたりしたので、短かったのですが、その後、参加者のみなさんから、いろいろな感想をいただきました。
例えば、
Aさんから、
「映画「ザ・トゥルー・コスト」 を鑑賞して、アパレル企業の現在の驕りと代償、特に労働者の意欲と信頼を失っている。もう少し労働者に敬意をはらう必要があると思います。 衣服の製造にかかわる人たちの劣悪な労働環境、低賃金長時間労働、多量の科学薬品が使われ、環境汚染( 使用水の汚染、農業用水、農作物を食べた人たちの健康は、損なわれ、多くの先天性の重度の麻痺や奇形がでている。日本で言う 水俣病のようです。
遺伝子組換えコットン(細菌由来の殺虫性毒素が組みこまれた(Bt 綿)、Co2の量の排出など。オーガニック・コットンは、身体にやさしく、テキサスでは見直されています。
今,多くのアパレル企業が、(ユニクロ・無印良品、H&M etc,) 東南アジア、中国、ベトナム、カンボジア、バングラデシュ、タイなどの国の工場で生産しているが、労働者の賃金が安い、長時間労働、劣悪な労働環境などで、問題になっていることが多い、特に最低賃金を払わない企業もあり、生活に困っている従業員も多い、最低モラルは、企業は、責任を持たなければならない。従業員あっての企業であることを自覚しないと会社は、信頼を失い、良くならないと思います。他国の労働者に頼っているので、大切にしないといけないです。 」
【濱田さんからのレスポンス】
Aさん、いつも服飾講座にご参加いただき、ありがとうございます。
映画『ザ・トゥルー・コースト』はアパレル産業の様々な問題を投げかけていますが、モンサント社が開発した世界でもっとも売れた除草剤ラウンドアップの評価をめぐる問題は見過ごせないと思います。
マリー・モニク・ロバン著、村澤真保呂他訳『モンサント—世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業—』(作品社、2015)には、次のようなコマーシャルの紹介が行われています。 かって、アメリカで、こんなコマーシャルがテレビで流されていました。
「レックスのようにお庭の雑草にお困りのあなたは、ほら、ラウンドアップ。史上初の生分解性除草剤です。雑草の内側にしみ込んで、根元から一網打尽。地面もレックスの骨も、汚染されません。ラウンドアップを使えば、雑草退治が楽しみになりますよ!」
芝生の植えられた庭の雑草にラウンドアップが撒かれ、この除草剤で雑草が枯れると、家の飼い犬が雑草で隠れていた骨を見つける、というコマーシャルだ。その後、どうなるのかはわからないが、レックスの興奮した吠え声から、彼は無事に骨を味わっていることが示唆される。ラウンドアップは絶対に無害だというわけだ。この可愛いワンちゃんが、缶に残った「生分解性除草剤」がつがつと貪る様子を視聴者が想像しなければ、すべては丸く収まるのである。P.115
このコマーシャルについて、次回、ディスカッションいたしましょう。」
濱田さんからのセッションや感想を聞いた後のまとめです。
「今後の学習課題として」
1. オンラインの良さと従来のGlobal Sessionの良さをドッキングすることで、より有意義なセッションになったことをうれしく思っています。WifiはZoomでは電波がとぎれると苦情が出ています。現に、この度のSessionでも電波がとぎれました。自宅で20mのlanのケーブルを用意いたしました。次回は電波がとぎれないことを願っています。
2.消費者の心理・認識の見直しなど、身近な問題の見直しの必要性があるのではないでしょうか。皆様の感想文を読ませていただいて、以下のとおり、今後の学習課題を整理してみました。3.以降は、濱田なりに学習課題を整理してみました。
① 「エコマーク」というラベルがついていれば、安全な商品だと思い、安心して購入する消費者心理。「エシカルとは」どういうことなのか。
② 「衣服をリサイクルすることは、環境のために20%以下の改善にしかならない」ことが知られていない。
③ コロナ禍におけるプラスティックのリサイクルの問題。
④ 「環境にやさしいとは」「持続可能なとは」どういうことなのか。
⑤ オーガニック・コットンは、どこで、どのようにして栽培されているのか。コストの点はどうなのか。オーガニック・コットンのリサイクルの問題。
⑥ CO2を減らす方法
3.モンサント社の遺伝子組み換え綿とラウンドアップの関係性
4.綿の生産と環境汚染の問題、つまり、水質汚染源である綿の染料の改良の問題。
5.世界貿易機構(WTO)は排出量のガイドラインを定めているが、鉛、カドミウム、水銀レベルのような費用のかかるレベルのテストは個々の政府に委託しています。ちなみに、日本の四大公害のうち、イタイイタイ病はカドミウムが、水俣病はメチル水銀化合物が原因です。
6.コロナ禍の影響で、衣服が売れなくなり、大手のメーカーが新品の製品を大阪の売れ残りの衣服の買い取り業者、山本昌一氏に安く買いとってもらい、山本氏はブランドのタグを切り取って、売っています。何と1万円の服を500円、100円で売っているのです。安く売ってでも、廃棄ロスをなくすという考えです。それどころか、今年は、例年に比して、売れ残りが多くて、来年に向けての生産計画を立てられないのが実情ということです。その結果、発展途上国の生産現場の仕事がなくなるのが目に見えています。『ザ・トゥルー・コスト』の搾取工場での低賃金、長時間労働よりも事態は深刻になるでしょう。
次回は、以上の学習課題を取り上げ、皆さんとご一緒に、今後のアパレル産業について、消費者目線で考えてみたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
(濱田雅子さんの次回のGlobal Sessionのゲストとしての登場は、2021年2月の予定です。) 文責 児嶋きよみ
アメリカの服飾に限らず、多民族の服飾文化(ヨーロッパ諸国、アジア諸国の服飾文化)に関する研究発表や講演、書評会、西洋服飾史・民族衣装セミナー、ワークショップ(デザイン画、手芸、コスチューム・ジュエリー制作など)を行って参りましたが、2020年より、新型コロナウィルス感染症の蔓延により、上記の様な集いが持てなくなっています。そのため、会報発行、および、オンライン講座による持続可能な活動を行っています。下記より、お気軽にお問合せ下さい。ただし、研究会の趣旨に沿わないお問合せには、対応できかねます。